お笑い芸人のはなわさんが、久しぶりに全国区の話題になっています。
きっかけは、奥さんの誕生日に送った『お義父さん』という楽曲。
聞いてみると、確かにその歌詞がたいへん感動的。
作品は、奥さんがまだ生まれたばかりの頃に家を出て行ってしまった義父に対し、義理の息子でもあるはなわさんが語りかける内容。奥さんが抱えてきた複雑な家庭事情に驚くとともに、シンプルなメッセージが聞き手の涙を誘います。
今回はこの『お義父さん』の歌詞を読んで、この曲が感動的な理由を私なりに考えてみました。
『お義父さん』に描かれた三つの優しさと、その根底にあるものについて・・・もちろん私見ですので、大目に見てくださる方にご覧いただけたらと思います。
おしらせ〜改訂作業中です
はなわ『お義父さん』の歌詞と意味
まずは百聞は一見に如かず。
まだご覧になったことがない方はyoutubeで。
お義父さん、
あなたの娘をもらって
〜〜
ありがとうございます お義父さん
ここまでの冒頭部分は、奥さんの現在の様子を中心に描かれています。
普通に聞いていればどこにでもありそうな家庭の微笑ましい風景が“はなわ調”で描かれているわけですが、先ほど書いたとおり、奥さんの父親すなわちはなわさんの義父は、奥さんが幼い頃に家を出て行って行方不明。
そのためお義父さんは、ここに描かれた娘の姿を知らない。
成長した娘がどんな人になり、今どんな人生を送っているのかが、楽しい家庭的なエピソードとともに紹介されているわけですね。
同時に奥さんははなわさんの初恋の人だったことも明かされ、夫人としてどれほど愛されているのかも、示されています。
どこかでお義父さんがこれを聞くことがあったら、きっと深い安堵感を覚えるのではないかと、私なりに想像します。この点ではなわさんは、お義父さんに向けてまず「安心してください」、と呼びかけているようにもとれます。
世間的にみれば、父親としてあるまじき振る舞いをしてしまったお義父さん。
その人に対して非難することをせずに、まず安堵してくれと伝えることは、なかなか出来ることではないというか、人間的な温かみを感じます。
その背景には、後で出てきますが、奥さん本人が決して父親を悪く言わない、ということがありそうです。そんな奥さんの繊細な感情へのはなわさんの深い思いやりも伝わってくるような気がします。
しかし次のパートでは、奥さんがあまり口にしない分、夫であるはなわさんが、お義父さんにぜひ知って欲しい、厳しいエピソードが語られていきます。
お義父さん、
あなたは産まれたばかりの娘を置いて
〜〜
生後間もない娘を置いて家を出て行ってしまう父親の心境とは、どんなものなのでしょうか。
そこに葛藤が無かったはずはない、と私は思います。しかし、どんな葛藤があったにせよ、その結果は取り残された家族の上に冷酷に降りかかります。その様子が、以下でお義父さんに突きつけられることになります。
お義父さん、
運動会では、いつも一人教室で
〜〜
運動会の楽しみのひとつは、昼休みのお弁当の時間です。
子どもたちは観覧に来た家族の元に駆け寄り、広げたシートの上でおにぎりやお寿司、サンドイッチなどを食べる・・・現在では、こんな典型的な光景を作れる家庭ばかりではないとも思いますが、はなわさんくらいの世代であれば、まだまだ一般的だったのかも知れません。
そんな状況では、親が運動会に来られない子どもたちは肩身の狭い思いをする。
友達が家族と笑顔で過ごす昼休みは、それができない子どもたちにとって、残酷な時間になってしまう。当然ながら、家計も苦しくなります。子どもが親の懐を忖度して、教科書を買うお金が必要であることすら言い出しにくい状況になっていく。聞いていても辛いです。
しかし、事はこれにとどまらない。
お義父さん、
四つ年上のお姉ちゃんはグレまくり
〜〜
当然ながら、取り残された家族の問題は、経済的な次元には留まりません。
「父親に見捨てられた」という思いが幼い子どもにどれほどの傷になることか。
歌詞によればはなわさんの奥さん本人はまだ物心がつく前の出来事だったと伺えますが、四つ年上のお姉さんはそうではなかった。一番小さく見積もって四歳だとしても、おぼろげな記憶がある可能性が高いです。
苦しい家計をやりくりして暮らしていた生活の場には、放課後、お姉ちゃんのグレた友達がたむろしていて、奥さんの居場所は無かった。お義母さんはきっと働きに出ていて、留守だったのではないかと想像されます。
そんな少女時代を過ごした奥さんは、はなわさんと出会い、新しい人生を歩み始めます。
20歳を過ぎ 僕が住んでた
東京へとやってきて
〜〜
奥さんは普通の家族であることを幸福だと思える女性になった。
芸人の自分に嫁いだおかげで、若い頃は苦労もさせてしまったけれど、そんなことを苦労とも思わず、自分に寄り添ってくれる。
そしてお義父さん、妻は、あなたのことを
〜〜
妻という人間をこの世に生み出してくれたあなたに、僕も感謝しています。
お義父さん あなたの娘をもらって
もう15年です
〜〜
・・・と、言い尽くせてはいないと思いますが、こんな内容かと思います。
みなさん感じ方はいろいろだと思いますので、多少違和感もあるかと思いますが、大目に見てくださればありがたいです。
『お義父さん』が感動的な三つの理由
さて、私はこの『お義父さん』を初めて聞いたとき、多くの人と同じように目頭が熱くなるのを抑えられませんでした。
その理由は何か・・・もちろん歌詞そのものにも心を動かされるのですが、その少し奥にあるものについて少し書いてみます。
お義父さんへの優しさ
その一つ目は、冒頭部分でも少し書きましたが、まずお義父さんを安心させている点です。
これも繰り返しになりますが、家族を置き去りにして出て行ったことは、父親として非難されてもやむを得ない行ないです。しかしはなわさんは、その父親に対して娘の様子を温かい目線で伝えています。
逆に父親の立場に立って想像すれば、これがとても有り難いことでしょう。
一般的に考えて、置き去りにしたので会わせる顔は無い。しかし、気にならないはずはありません。
どんな人でも過ちはあります。その大小に違いはあれ、やってしまった本人にとってもそれは傷になる。それを踏まえて、温かい態度で接することはたいせつなことだろうと思います。道義的な責任を問われるのは仕方有りませんが、特に昨今、悪者は悪者、といわんばかりのレッテル貼りが横行し、過剰な悪者叩きの風潮もあるような気がしています。人生、そんなに単純にはいかない・・・と、脱線しそうなのでこのあたりでやめますね。
ともかく、冒頭部分では、一般的な反応ではちょっとあり得ないようなお義父さんへの優しさが浮かび上がってきます。
奥さんの優しさ
私が感じた感動ポイントの二つ目は、奥さんの強さです。
辛い少女時代を強いられた奥さん。
確かにその当時は酷い状況に追い込まれてしまった。
ですがその境遇に負けることなく、むしろそれをプラスに変え、普通の暮らしに価値を見いだし、今の生活を築き上げた。
ちなみに、はなわさんの息子さんたちは歌詞にもあるとおり柔道にとりくんでいて、なかなかの有名選手だそうです。この点からも、奥さんは充実した家庭生活を送っていることがうかがえます。
さらに、その辛い境遇をもたらした父親に対しても、恨むこともなく肯定している。
奥さんの胸中の深いところまでは私には想像できませんが、ともかく世間的には不遇な境遇も、若いはなわさんとの厳しい時期を乗り切る力に変えてしまった。
言葉にすれば簡単ですが、なかなか出来ることではないですよね。
この項、見出しに奥さんの優しさと書いているのに、強さについて書いてばかりいるのに違和感を感じた方もおられるかも知れませんが、このような経験を経て培われた強さが、ほかならぬ奥さんの優しさにつながっているのだろう、と思うのです。
自分を捨てた父親を恨まないということは、単なる優しさだけではできないことですよね。
はなわさんの優しさ
こういうわけで、奥さんはお父さんについて恨み言ひとつ言わない。
だからこそ、はなわさんはこの歌を作った。
この点が、私が思う三番目の感動ポイントです。
ひと口に、不遇な境遇をプラスに変える、などと言っても、それはそう簡単なことではない。
奥さんの胸の内にはさまざまな思いがあるはずです。
だからこそ父親については、酔った時にしか語れないのではないか・・・そんな風に私は想像しました(あくまで想像です)。
そこで一番身近な存在=夫であるはなわさんが、その妻の胸の内を言葉にして、父親に呼びかけるメッセージにした。
奥さんが父親を恨んではいないこと、
苦労もしたけど、それを糧に強く成長したこと、
そして今はこんな歌を歌っている人と結婚して、家庭を築いていること
限られた歌詞の中で、奥さんが父親に伝えたい大切なことがしっかり描かれています。
思いやりに満ちた、素敵な誕生プレゼント、ですよね。
そして、何より伝えたいのは最後の、会いたい、ということなのではないでしょうか。
おわりに:『お義父さん』の背景にある信頼
奥さんの気持を代弁したはなわさんの優しさは、一方で勇気の要ることでもあると思います。
夫婦と言っても元は別の人間。特に幼少期の出来事に関しては、お互いにきちんと理解し合えていることばかりではないと思います。その意味ではなわさんが、奥さんのデリケートな記憶にふれることができるのは、奥さんとの深い相互理解と、その理解への自信があるからにほかならない、と感じるわけです。
私としてはこの曲、最初の印象としては奥さんの境遇に驚き、それを乗り越えたことに感じ入ったように思いました。ですが何度か聞いているうちに、その感動の源泉は、奥さんとの深い信頼に基づいたはなわさんの勇気にあるような気がしてきました。
お義父さんを安堵させていること、奥さんが境遇を糧に成長したこと、そして心の底では父親に会いたいと思っていること、これらは全てはなわさんが思う「奥さんが父親に伝えたいこと」です。
本人が言葉にしない思いを、サプライズとして歌にする。
的外れなことを言えば、地雷爆発です。微妙な記憶なだけにその後の夫婦関係にも影響しかねない。
また、浅薄なことを歌うのもとても危険です。表面的な同情やありきたりなねぎらいでは、奥さんの傷を抉ることになりかねず、そうなればかえって夫婦間の絆は弱まってしまう。
こうしたことを考え合わせるとき、このはなわさんのこの歌からもたらされる感動の背後には、本当に人生を共にしている二人にしか実現し得ない信頼関係があるような気が、私にはしています。
もしかすると、この強い信頼関係そのものへの感動なのかも知れない、とも思う。
特に人と人との関係が希薄になっている昨今、こういう信頼関係はひとつの憧れとすら言えるのかも知れません。
たいへん長くなってしまいました。
もし最後まで読んでくださった方がおられたら、お礼申します。
ありがとうございました。
コメント
こんな安っぽい曲大っ嫌い!!!!!
苦労したことないからこんな偽善で自己陶酔な曲に感動できるんだ。
嫁の父がしたことはネグレクトだよ!?
感謝するなら1人で育てた母親の方でしょうが。
馬鹿じゃないの!?
同じ苦労してみろよ!!
こんな綺麗事言えるわけない!!
最低な身内売りの曲だと思う。
そこまでして金儲けしたいのか!?
上の方の意見は正論で反論はしませんが…
美しい思い遣りに満ちた歌詞だと素直に思います。
いろんな価値観があり、人の立ち位置によって見えかたも違うと思いますが、美しいものを美しいと思える気持ちはあって良いと思います。
私は施設で育ってます。
親の愛情も知りません。
故にこの歌詞が心に残ります。
解説ありがとうございました。
はなわは男だからさーどうしても男目線、父親目線になるやん。それはしょうがないぜよ。
おかあさんに感謝してないわけないと思うんだけどなぁ
それに歌詞にあるありがとうも
純粋に感謝の気持ちだけで言ってるものじゃないんじゃないかな
『うちの嫁は天然ボケで楽しいですよ
でもあなたのせいでこんなつらい思いをしたんですよ
だからこそ普通の幸せな家庭を作ってくれてるんですよ
僕はこんな嫁が大好きです
ありがとうございます』
最低‼︎とコメントしてる人は実際に自分が体験したの?想像ならそれこそ最低だよ。俺の両親も離婚してて母親に育てられたけど凄い心に響いたし、このブログの解釈にも納得出来た。
まず曲はただ単に父親への感謝を歌ったものではないよね。
出て行った父親がメインの歌に母親への感謝を持ち出すと何が言いたいのか分からなくなるから、敢えて入れなかった気がする。多分入れると逆に作り物っぽく感じると思う。
あと、男だから父親目線になるとか言ってる人いるけど、境遇知ってその目線になるなら相当性格が歪んでると思うよ。子供時代の記憶なら子供視点になるのが普通だし、男女という曖昧なものではなく親子という関係で考えるべき。
とりあえずコメント書いてるの理解能力ない人多すぎ。
コメントくださったみなさま、どうもありがとうございます。
ブログ主である私自身は、この曲を聴いて心を動かされてこの記事を書かせていただいたのですが、一方では否定的な感情をお持ちの方もいらっしゃるということを、このコメント欄で知りました。その意味でははじめにご投稿くださった方もふくめて、みなさまに深く感謝しています。
この曲はそれぞれの人生経験に照らせば、微妙な琴線にふれる問題をはらんでいると思います。そのナイーブなところに曲の感動の源泉もあるため、反応が分かれるのも自然なことなのかも知れない、と思うようにもなりました。
私自身は、はなわさんと奥さまが築いてこられた関係に感動したわけですが、それは与えられた困難な状況をよい形で乗り越えることができた結果・成果であって、言ってみればひとつの奇跡のようなことなのかも知れません。おそらく誰にでもできることではない、と思います。
ご自身の経験に照らしつつ好意的なご意見をここに投稿してくださったみなさんも、やはり同じような奇跡を経た結果、この歌をよい形で受け止められるのかも知れない、、、そんな風に感じながら、みなさんのコメントを拝見させていただいておりました。
それぞれの人生のステージで、それぞれの課題があると思います。その渦中にある時は、特定の表現が深く刺さり、あるいは煩わしく感じるということもあろうかと思います。
できればこの場は、それぞれのその時の感じ方を認め合い、確認しあえる場所であって欲しいと願っています。
ひとつひとつにお返事できずに心苦しいのですが、とりあえず今感じていることを投稿させていただきます・・・