“長周期パルス”、聞き慣れない言葉ですが、いったいどのようなものなのでしょうか?
地震の際、タワーマンションなどの高層ビルに壊滅的な被害を及ぼす揺れとして、NHKが近々特集するらしいのですが、局の造語なのか。はっきりした情報が見つかりません。
ということで、今回はこの長周期パルスについて、わかる範囲で情報を集めてみました。
主な内容は、
- 長周期パルスとはどんなものなのか?
- 具体的にどのような危険性があり、
- 対策はどうなっているのか?
などになります。
ことが起きた時に聞き慣れない言葉が飛び交うとパニックになりがちです。せめて知識の上でも予習をして、いざという場面に備えておけたらと思います。
長周期パルスとは何か?
長周期パルスがはっきりと認識されたのは、2016年4月の熊本地震。
規模においてM7.3を記録した熊本地震では、震度7に見舞われた西原村で非常に強い「長周期地震動」が観測されました。
内陸にある活断層付近でこのような強さの長周期地震動がみられたのは初めて。
専門家も認識を新たにし、建物の設計上の想定を見直す必要があると指摘されています。
以下、
- なぜ長周期パルスが恐ろしいのか?
- そもそも長周期パルスとは何なのか?
私の考えですが、順を追って見てみましょう。
地震の揺れの種類
地震が起きると地面が揺れますが、その揺れが一往復する時間を周期と呼びます。
地震動はこの周期の長さによっていくつかの種類に分けられているのですが、あまり細かく紹介してもわかりにくいので、次に三つほど挙げてみます。(分け方には諸説もあるようなので、理解を助けるためのざっくりした分類とお考えください。)
短周期時振動
周期が約0.5から1秒ほどの短い揺れ。
人間が最も揺れを感じやすいとも言われます。
キラーパルス
周期が1から2秒ほどの揺れ。
ところで、建物にはその建物に固有の揺れやすい周期(固有周期)というものがあります。
住宅など建造物の多くはこの1から2秒周期の揺れが最も揺れやすく、そのため倒壊などの被害も起きやすい。キラーパルスには「稍(やや)短周期地震動」という専門的な名前もあるのですが、このような揺れの性格を考えると、キラーパルス、という言い方のほうがしっくりきます。
阪神・淡路大震災で大きな被害をもたらしたことで、多くの人がこの“キラーパルス”を知ることとなりました。
長周期地震動
これに対して長周期振動は周期2秒以上の地震動。
大きな地震の際に発生し、ゆっくりと大きく揺れるのが特徴です。
高層、ないし超高層建築物の場合、こういう長い周期の揺れと共振する傾向があり、揺れ幅が大きくなりがち。高層階の室内では家具などが高速で移動、被害が拡大すると言われています。
みなさんも、冷蔵庫や本棚が室内で踊りまくるような映像を見たことがあるかも知れません。建物は大丈夫でも、中がめちゃくちゃ。当然、そこに住む人間も無事ではいられません。
この長周期振動についての認識が一気に広まったのは、あの東日本大震災。震源から遠く離れた東京都心の高層ビルが不気味に揺れている映像を憶えている方も多いでしょう。このように、震源から遠くまで伝わって行くことも長周期地震動の特徴です。
長周期パルスとは?
さきほどのキラーパルスが一般住宅に甚大な被害を及ぼすのに対し、長周期パルスはその高層建築版、と言えそうです。
直下型の地震によるキラーパルスが震源付近の低層の建造物をなぎ倒すのに対して、長周期地震動は震源から遠方の高層ビルを大きく、ゆっくりと揺らすというイメージでとらえられていました。東日本大震災の時、東京23区の震度は「5強」。決して小さな震度ではありませんが、震源から離れていたのでこのくらいで済んだ、とも言えるでしょう。
ですが熊本で観測された長周期振動は断層付近、すなわち震源間近で起きていた。
長周期パルスという言葉を理解するポイントは、おそらく、内陸の都市直下の断層においても長周期振動が起きる可能性があり(熊本では実際に起きた)、その場合、さらに揺れが大きくなって、特に高層建築物への被害が甚大になる可能性がある、という点だろうと思います。
長周期パルスの危険性〜都市の高層ビルが危ない
以上はあくまで私の理解なのですが、実際に震度7クラスの長周期地震動が高層建築物に及ぼす影響を考えると空恐ろしいものがあります。
もし大都市でこういう揺れが起きれば、まさに高層建築版キラーパルスとなって、高層ビル群が軒並み崩壊、などという事態も起こってしまうかも知れません。
震度7を記録した西原村の長周期振動を、東京のビルに置き換えたシミュレーションがあるそうです。
地震工学が専門で工学院大学の久田嘉章教授は、東京・新宿区にある高さ140メートル余りの29階建ての大学のビルが、この長周期の揺れによってどのような影響を受けるか、実際の波形を使ってコンピューター上でシミュレーションを行いました。
その結果、長周期地震動によって建物全体が大きく揺れ、最上階の揺れ幅は最大で3メートル50センチ前後に達しました。建物を支えるはりや筋交いの多くが地震の揺れによって激しく損傷し、揺れが収まっても変形が残り、建物が傾いたままになるという結果となりました。
出典:非常に強い長周期地震動 熊本地震で観測 | NHK「かぶん」ブログ:NHK
この揺れは設計の基準の三倍に到達。高層ビルが倒壊する恐れが指摘されました。
久田教授によりますと、今回の長周期の揺れの大きさは設計で想定する基準の3倍程度に達していて、最悪の場合、超高層の建物の倒壊につながるおそれもあるということです。
出典:非常に強い長周期地震動 熊本地震で観測 | NHK「かぶん」ブログ:NHK
仮に高層ビル一棟が倒壊しただけでも凄まじい被害が予想されます。
それが幾つもとなれば・・・慄えます。
断層型の地震であれば、国内のほとんどの都市で起きる可能性があると言わなければなりません。
長周期地振動の動画
長周期地振動が高層建築物にどのような影響を及ぼすのか、3.11の際の映像を思い出してみましょう。
“長周期パルス”の映像はありませんが、これが激しくなり、ことによるとビルが倒壊するというのですから、想像するだに恐ろしいです。
長周期パルスの対策
南海トラフ巨大地震の長周期地震動を想定し、国土交通省は太平洋側の次の都府県に対策を促しています。
- 東京地域(東京、埼玉、千葉、神奈川)
- 静岡地域(静岡、山梨、愛知)
- 中部地域(愛知、岐阜、三重)
- 大阪地域(大阪、兵庫)
概要としては、高層建築物を、1秒間の揺れ幅が160cmの長周期振動に耐えられるようにせよ、というもの。2017年4月以降に申請する60メートル以上の新築物件に適用されているそうです。この160cmという揺れ幅は、以前の2倍だそうです。
出典:長周期地震対策を強化 高層ビル「南海トラフ」に備え :日本経済新聞
しかし、これはあくまで従来の長周期地震動に備えるもの。
プレート型の巨大地震が遠方で起き、その長周期地震動が沿岸都市を見舞う場合の対策だと考えられます。
今ここで問題にしている都市直下型の長周期パルスの対策として、これで足りるのかどうか、疑問です。
決め手になるかフロートシティ
現在研究が進んでいるのは、建物そのものを浮かせてしまおうというダイナミックな対策。
毎分800リットルの空気を送り込み、地盤と建物の間に100分の6mmの隙間を作るそうです。
たとえわずかでも浮かせることができれば、水平方向の揺れ対策は大丈夫ですよね。
縦方向の揺れに対しても、特殊なバネで“断震”するコンセプト。
子どもの頃地震が恐くて、家を浮かせることを想像したことはありますが、まさかリアルでこんな技術が生まれるとは・・・このエアー断震、テストはかなり順調な様子で、将来的には都市もろとも浮かせようという壮大な計画もあるとか。もはやSF的です。人間てすごい。
長周期振動の過去の被害
とはいえ、長周期パルスが認識されたのは熊本地震が初めて。
どのような被害が生じるのか、まだはっきりとはわかりません。
過去の長周期地震動の被害としては、次のようなものが例に挙げられます。
2003年の十勝沖地震 M8.0
長周期地震動で、苫小牧市の石油コンビナート内の石油が揺動。浮き屋根が沈没し、静電気による火災が発生。
震源から約250km離れたところで起きた被害でした。
2004年の新潟県中越地震 M6.8
震源から約200km離れた東京都内の高層ビルのエレベーターのワイヤーが損傷。
この時の東京の最大震度は3でした。
2011年の東北地方太平洋沖地震 M9.0
東京都内の高層ビルが大きく揺れ、さらに離れた大阪市の高層ビルでエレベーターが停止、内装材や防火扉が破損。この時の大阪市も最大震度は3くらいだったそうです。
#参考:気象庁|長周期地震動について | 長周期地震動による被害
都市直下での長周期パルスの場合、被害はこれらをはるかに上回ってしまいそうです。
長周期パルスが取り上げられる番組はNHKスペシャル
問題の長周期パルスは、NHKスペシャルでとりあげられます。
シリーズ MEGA CRISIS 巨大危機Ⅱ~脅威と闘う者たち~
第1集 都市直下地震 新たな脅威 “長周期パルス”の衝撃
放送日時は、2017年9月2日(土)21時00分から21時49分まで。
まとめ
私が調べた限りでは、長周期パルスという言葉は、まだあまり一般的なものではなく、現時点ではNHKの造語という印象ではないか、という感触ももっています。
その上でこの記事では、その長周期パルスを、“内陸の断層型の地震で震源付近で生じる長周期振動”としてとらえてきました。ですが、あくまで素人の私が調べた範囲での捉え方なので、そういう記事とご理解ください。
とはいえ、ここで見て来たとおり、直下型の断層地震が高層ビルを倒壊させるリスクは、これまで十分には想定されていなかったようです。
このあたり、NHKスペシャルでどのようにひもとかれていくのか、たいへん興味深いところです。
最後までご覧くださり、ありがとうございました。
誤りなどありましたら、お寄せいただけると助かります。
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